photo by Shinya ICHINOHE
青森県にある人口8000人ほどの小さな村「田舎館村」には、夏になると年間30万人近くの人が押し寄せています。彼らの目当ては田んぼアート。田んぼアートとは様々な色の天然の稲を計算して植え、田んぼ全面に絵を描く芸術です。村おこしのために始まったささやかな試みが、今では国内はもちろん海外からも熱い注目を浴びるようになりました。そんな田舎館の田んぼアートについて詳しくご紹介します。なお上の写真は2013年の作品「花魁」です。
そもそも田んぼアートとは
長い米作りの歴史を持つ青森県の田舎館村が、村おこしにつなげようと1993年に開催した子供向けの田植え体験ツアーが田んぼアートの始まりです。最初は文字と地元の山だけのシンプルなデザインでしたが、その後年月を経るごとに進化を遂げ、測量と遠近法の導入によって芸術性が飛躍的に高まっていきました。テレビ番組で紹介されたことがきっかけとなって全国的に注目を集め、今では国内外から数多くの観光客が訪れるまでになっています。絵の具代わりになるのは、1つ1つ手で植えられた稲。これはもちろん着色されたものではなく、色が違う稲を何種類も使用して微妙な色彩や濃淡を表現しています。田舎館村で始まった田んぼアートは、今では日本全国に広がりを見せており、どの地域も田舎館村に勝るとも劣らない完成度とユニークな絵柄で見る者の目を楽しませてくれています。
2015年の田んぼアート
photo by Manisha Kundu-Nagata
photo by yari hotaka
2015年の田んぼアートのテーマは「風と共に去りぬ」と「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」。不朽の名作「風と共に去りぬ」ではレット・バトラー(クラーク・ゲーブル)がスカーレット・オハラ(ビビアン・リー)を抱きかかえているポスターを再現しました。そして「スター・ウォーズ」はルーカスフィルムがデザイン監修を務め、お馴染みのC3-POとR2-D2、そして2015年新キャラクターのBB-8が鮮やかに表現されています。同年7月22日に開催された「見ごろ宣言式」では、4人のストームトルーパー達がサプライズ登場し、観客を沸かせました。
過去のアート作品
田舎館がこれまで生み出してきた田んぼアートの中から一部をご紹介します。
photos by flashindo.com
一番上は2009年の作品「ナポレオン」。馬にまたがるフランスの第一帝政の皇帝の姿が躍動感いっぱいに表現されています。2番目は2011年の作品「竹取物語」。かぐや姫の背後に見える鮮やかな黄色は彼女が還っていく月の輝きです。続く3番目は「不動明王」と4番目が「七福神」、ともに2012年の作品です。不動明王には悪魔祓いの意味があり、2011年に起こった東日本大震災の厄払いとしてテーマに選ばれました。北前船に乗る七福神も東北の復興が順風満帆に進むようにという願いが込められています。
田んぼアートの見頃
田んぼアートの観覧期間として設定されているのは6月~10月上旬ですが、一番の見頃となるのは色鮮やかになる7月中旬から8月中旬です。2015年には7月22日を最も美しく見える頃としてイベントが開催されました。しかしそれを過ぎると美しさが損なわれるということではなく、9月に入ると実り始めた黄金の稲穂が青々としていた絵柄に色をのせ、また刈り取り前にはアート全体がセピア色を帯びてくるので、時期によって違った趣を楽しむことができます。混雑状況としては、ちょうど7月~8月の見頃の時期と学校の夏休み期間が重なっていることもあり、その期間は平日でもある程度の待ち時間が発生します。お盆などの大型連休中や前後の週末はかなりの行列を覚悟した方が良いでしょう。入館券を買えるまでの時間が継続的に1時間を超える時には整理券が配布され、まず券を受け取ってから自由に過ごし、指定された時間に戻ればそれほど待たずに鑑賞できるように工夫されています。
アクセス情報
田んぼアートは青森県南津軽郡田舎館村の2か所で開催されています。
第1田んぼアート
場所:田舎館村役場・東側水田(役場天守閣より見学可)
弘南鉄道「田舎館駅」から車で5分
第2田んぼアート
場所:道の駅いなかだて・弥生の里(展望所より見学可)
弘南鉄道「田んぼアート駅」から徒歩2分
第1田んぼアートと第2田んぼアートの間は徒歩だと30分程度の距離になります。期間中はシャトルワゴン「たさあべ号」が無料で運行しています。
【料金】
大人:会場ごとに300円(6階天守閣は200円)
子供:会場ごとに100円(小学生。未就学児は無料)
【開館時間】
7月半ば~8月末は8:30~18:00
その他の期間は9:00~17:00
期間中は土日祝日も開館しています。
詳しくは公式サイトまで。ライブ映像も配信されており最新の情報がわかります。
まとめ
「全国田んぼアートサミット」が開催されたり、埼玉県行田市では「世界最大の田んぼアート」としてギネスに認定されたりと、何かと話題に事欠かない田んぼアート。近年は海外の関心も高まり、フランスや中国から田舎館に研修チームが来るほどです。都心からは少し遠いですが、ぜひこの感動を写真ではなく生で味わってみて下さい。鑑賞の前後には道の駅や「田んぼアート商店街」での買い物も楽しめますよ。