photo by Ken_ichi Kaizuka
「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」という映画を見たことはありますか?海難事故に遭い家族を失った少年が、船に乗せられていた虎と一緒に小舟で長期間海の上を漂流するお話です。この映画のワンシーンに、夜、少年と虎を乗せた小舟の下の海水が青く輝き、クジラが飛び出してくるというシーンがあります。実に幻想的な美しいシーンですが、クジラはともかくこの青く輝く夜の海、決して空想の産物ではなく実は現実に見ることができるのです。青い輝きの正体は、夜光虫とよばれる発光性のプランクトン。一つ一つは小さな点ほどの大きさですが、大量発生すると夜の海が青く光り輝いて見えるのですね。夜光虫の光で染められた夜の海、いつ、どこで見ることができるのでしょうか。
夜光虫とは
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夜光虫は直径1~2㎜程の球体型で比較的大きな形状の、日本近海のほぼどこにでも生息しているごく一般的なプランクトンです。物理的な刺激に反応して発光する性質があり、大量発生時には波打ち際などを青く染めているのが見られます。また、船が通って水面が波だった時や、海中に物が投げ入れられたときにも青い蛍光色に光ります。
赤潮との関係
夜には海面が青のネオンカラーに染まり、それはそれは美しい光景を描き題しているのですが、そもそもこの景観はプランクトンの大量発生によって起こったもの。大量のプランクトンによって引き起こされるものといえば、そう、赤潮です。夜光虫はもちろん日中も発光していますが、太陽光の下ではその仄かな光は全く見えません。かわりに、夜光虫の本来の色である赤褐色で海が染まることになります。日中はかなり赤色が強く、時には海にトマトジュースを流したような赤に見えることもあり、昼間と夜の景色の違いにびっくりするかもしれません。
時期と場所
夜光虫のシーズンは、おおまかに行って海水の温度が上昇する春から夏にかけて。これは水温が上がることで、プランクトンが繁殖しやすくなるためです。一般的に赤潮は、生活排水や工場排水が流れ出て海水の栄養分が高くなる場所に発生しやすいものです。しかし、夜光虫は必ずしも海水中の栄養塩濃度を受けるわけではなく、例えば都市部や、工場地帯周辺の海だけに発生するというわけでもありません。代わりに大型で軽いため海面に分布しやすく、また風によって吹き流されやすいので、湾上の地形の場所や沿岸部に吹きだまることが多いです。南は沖縄から北は北海道まで、日本全国の海で見ることができます。
夜光虫の鑑賞方法
photo by Ken_ichi Kaizuka
夜光虫の発生イコール赤潮の発生ですから、ひとまず赤潮の情報が出たら、夜その場所へ行って青色に輝く海を眺める、というのももちろん一つの鑑賞方法です。しかしただ眺めるだけでなく、衝撃に反応して光るという夜光虫の特性を利用して、例えば海中に小石を投げ入れて光のしぶきを楽しんだり、海岸に青い足跡を残したりして遊ぶことができます。もちろん、舟で少し沖へ出て舟の通った後の波間が、青く輝くのを見るのも趣がありますね。また夜光虫のシーズンになると、全国各地のダイビングショップやマリンスポーツクラブなどが企画する「夜光虫ツアー」がたくさん開催され、ボートの上から光り輝く海を見学したり、夜間のシュノーケリングを楽しんだりできます。下記は開催されている夜光虫ツアーの例ですが、このほかにもたくさんの団体がツアーを開催しています。
マリンクラブ・ナギ(夜光虫シュノーケリング体験・沖縄)
伊根町観光協会(夜光虫ウォッチングツアー・京都)
ケー.アイ.クラフト(カヤック体験ナイトコース・愛知)
ダイビングショップ・リトルリッツ(夜光虫監察ツアー・静岡)
ダイビングショップ・オーシャンデイズ(夜光虫体験ツアー・北海道)
注意点
赤く濁った昼間の姿からは一転、夜の闇に浮かび上がる青い光が幻想的な夜光虫ですが、鑑賞するにあたっていくつか注意しておきたい点があります。
匂いがきつい
夜光虫というプランクトンの大発生によって光る夜の海。実際に行くと少々臭いが強いことに気付くと思います。着ている洋服などに海水がつくと臭いが染みついてしまいますので、気になる人は水の中に入るのは避けたほうがいいかもしれません。
周りに光があると見えにくい
夜光虫の発する光は仄かなものです。周りに光がある環境だと、夜光虫の光がかき消されて見えにくくなってしまいます。
ついでに魚釣り…は避けたほうが無難
魚釣りに行くついでに夜光虫をみたい!と思う人もいるかもしれませんが、これはちょっとやめておいた方がよさそうです。というのも、一般的にプランクトンが大量に発生している海では酸素が不足気味になるため、魚の食いつきはあまりよくありません。
波が荒いと光が弱い
物理的な刺激に反応して光る夜光虫ですが、海がしけて波が荒い夜にはあまり光らないようです。衝撃を与えすぎても光らないのですね。
まとめ
まるで宝石のように青く輝く美しい夜の海。ものすごく珍しい光景かと思いきや、比較的簡単にみられるというところが嬉しいですね。時期も春から夏の間と、数カ月間に渡って見ることができます。夜光虫で光る海は日本全国どこの海でも見ることができますので、ホタルイカなど地域が限定されているものよりも、ずっと手軽に見に行くことができます。ドライブや散歩のついでに、ちょっと普段とちがった海を見に行くのも楽しいものですよ。