自国と日本の年金二重払いを防ぐための社会保障協定と適用証明書

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20歳から59歳までのすべての日本国民に加入が義務付けられている、国民年金。外国人であっても中長期の在留資格を持って日本に住んでいる場合は、日本での収入のあるなしに関わらず同じく加入が義務付けられています。しかし、例えば自国の勤務先の都合で日本へ転勤になった場合など、自国の社会保障制度を脱退しないまま日本で生活を始めた場合、両方で保険料を納めなくてはいけなくなってしまいます。こういった事態を避けるため、日本は数か国と「社会保障協定」を締結しています。事前に自国で「適用証明書」を取得することで、日本の国民年金や厚生年金への加入が免除されることがあります。

 

社会保障協定とその目的

社会保障協定とは、「保険料の二重支払いの防止」と「年金加入期間の通算」を目的に、日本と特定の数か国との間で締結されています。日本で働く人は全て日本の年金制度に加入しなくてはいけませんが、勤務先の人事異動で日本へ転勤になった人や、一時的に日本で活動を行うことになった自営業者などは、自国と日本で二重に保険料が発生する場合があります。また、年金を受け取るためには一定の加入期間が必要になりますが、日本での滞在期間によっては保険料の掛け捨てになってしまう場合があります。このような事態を防ぐために、社会保障協定はあります。この協定の対象となるのは下記の人たちです。

  • 雇用されている従業員で一時的に日本へ転勤になる人
  • 自営業者(ただし日本に来て新たに自営業を始める人は対象外)

日本と社会保障協定を結んでいる国

協定発効済:ドイツ イギリス 韓国 アメリカ ベルギー フランス カナダ オーストラリア オランダ チェコ スペイン アイルランド ブラジル スイス ハンガリー インド
署名済未発効:イタリア ルクセンブルク フィリピン

 

社会保障協定の概要

社会保障協定とは、日本で働いている期間中は日本または自国のどちらか一方の年金に加入し、もう一方の国の年金は免除にしようという趣旨のものです。また、日本の年金制度に加入していた場合は、その期間を自国の年金加入期間として通算することができます。日本に滞在して働いている間、どちらの国の年金に加入するかは、当初見込まれていた滞在期間によって決定されます。

  • 5年以内の一時派遣:協定相手国の年金に引き続き加入・日本の年金制度は免除
  • 5年以上の長期派遣:日本の年金制度に加入・協定相手国の年金は免除
  • 予見出来ない理由で5年以上を超える場合:原則として日本の年金制度に加入・両国で合意があれば協定相手国の年金を延長して継続(延長できる期間は国によって変動・最長は5年まで)

※協定の内容は、各協定相手国によって多少変動するところがあります。詳細は各相手国の年金実施機関で調べられますが、日本年金機構のウェブサイトにも情報が掲載されています。

 

日本の年金制度への加入免除には「適用証明書」が必要

5年以内をめどに、雇用主から日本へ派遣される人もしくは自営業のために来日する人が、自国の年金を継続して日本の国民年金から免除されるためには、事前に自国の年金実施機関が発行する「適用証明書」を取得しておきます。
※各協定相手国からの適用証明書の発行には審査があります。審査に通らず適用証明書が取得できない場合は、日本の年金制度に加入することになります。

  • 一時的に派遣される従業員:雇用主が派遣される従業員の適用証明書を申請。来日後は日本の勤務先に提出・保管(ベルギー、フランスにおいては本人が所持)。
  • 自営業者:自身で自国の年金実施機関に出向いて申請・取得。来日後は自身で保管。

対象者が来日後、日本の年金制度を免除してもらうために何か特別な手続きをする必要はありません。雇用されている従業員であれば雇用主が該当従業員の厚生年金加入手続きをしない、自営業者であれば国民年金の加入手続きをしないでおくことになります。ただし、年金事務所などが提示を求めた場合や、調査が入って年金未加入の理由を聞かれた際には、すぐに適用証明書を提示できるように手近に保管しておく必要があります。

 

日本の年金制度に加入する人は

前述の日本の年金制度免除の対象者以外は、国民年金や厚生年金に加入することになります。雇用されている従業員であれば雇用主が厚生年金の加入手続きを行います。自営業者や学生、その他の中長期滞在者は自身で市町村役場に出向き、国民年金の加入手続きをしましょう。また、学生やワーキングホリデーメーカーなど、就労を目的としない滞在者も、社会保障協定の対象にはならず日本の年金制度への加入が義務付けられます。協定相手国の多くは、所得のある人に対して年金制度への加入を義務付けており、日本のように所得のあるなしに関わらず一定の年齢に達した時点で強制加入とはしていません。そのため、就労目的でない滞在者は自国で年金制度への加入を免除されており、適用証明書を取ることができません。もし日本で国民年金に加入したけれども、所得がないので保険料を支払えないという人は、学生納付特例制度や国民年金保険料免除・納付猶予制度などを利用することができます。

また、日本での滞在期間を終えて出国する際には、脱退一時金を受け取るか年金加入期間を合算するかの選択になります。脱退一時金を受け取ってしまえばそこで終わりですが、年金加入期間を合算したいという人は、帰国後も年金手帳や日本に滞在して働いていたという証拠(パスポートや雇用証明書など)を、失くさないように保管しておきましょう。将来の年金請求時に重要な書類となります。

 

まとめ

年金制度は自分自身の生活を守るために重要な制度ですが、保険料を重複して支払わなければならないとなるとかなりの負担ですね。とりわけ日本で短期間だけ年金制度に加入したのはいいけれど、加入期間が足りずに結局年金は受け取れないなどという「掛け捨て」の状態は絶対に避けたいところです。就労を目的に来日する時には、どちらの年金制度に加入することになるのか確認しておきましょう。

 


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あきらことほ

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日本を離れて11年。帰国の度に日本のいいとこ再発見。このコラムが皆様の「日本のいいとこ発見」のお役に立てればウレシイです!

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