勤めていた外国人が帰国時に申請できる厚生年金の脱退一時金とは?

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日本に住み、日本国内の会社で働く外国人は自動的に払うことになっている厚生年金保険料。でも何らかの事情で帰国することになった場合、掛け捨てになってしまうのは勿体無いですよね。実は、年金には払った保険料を少しでも無駄にしないための脱退一時金という制度が用意されています。今回は、日本で厚生年金に加入していた外国人が帰国後に申請することができる脱退一時金について詳しくご説明します。

 

厚生年金の脱退一時金とは

日本では、原則として全ての法人は厚生年金の加入義務があります。そして「脱退一時金」とは、日本国内の会社で厚生年金保険に加入して、6か月以上働いたことのある外国人に対して、帰国後に厚生年金保険から支払われる一時金を指します。日本に滞在して働く外国人は、義務として毎月厚生年金保険料を支払っても、結局老齢年金を受け取らずに帰国することになるケースが少なくありません。そのような保険料の掛け捨てを防ぐために、外国人が日本を出国後に請求すれば、日本で厚生年金保険に加入していた期間に応じて、まとまったお金が支払われるのです。なお、厚生年金保険だけでなく、国民年金にも同様の制度があり、例えば小規模の事務所勤務や個人事業主として日本で仕事をして国民年金保険料を6か月以上支払っていた外国人は、帰国後に国民年金の脱退一時金を請求することが可能です。これについては別のページでご説明しています。

 

厚生年金の脱退一時金を受け取る要件

脱退一時金を受け取るには、下記の要件を満たす必要があります。

  1. 厚生年金の被保険者期間が6か月以上あること
  2. 日本国籍を持っていないこと
  3. 老齢年金・障害年金などを受ける権利を満たしておらず、また受けたことがないこと
  4. 日本国内の住所を持っておらず、国民保険の被保険者になっていないこと

上記を満たした上で、日本を出国後2年以内に日本年金機構に請求手続きを行うことで、脱退一時金を受け取ることができます。日本国内では申請できないため、海外から書類のやり取りをする必要があり、少し手間がかかります。また、上記「4. 日本国内の住所を持っていない」という要件を満たす為には、必ず転出届を提出しなくてはいけません。出国前に役所の市民課窓口で転出届の手続きをすることを忘れないようにしましょう

 

厚生年金の脱退一時金の支給額

国民年金の脱退一時金であれば金額は加入期間に応じて変わるだけでほぼ一定ですが、厚生年金の脱退一時金を算出するには少し難しい計算が必要となります。2005年4月以降に厚生年金に加入していた人の場合、被保険者だった月数に応じて次のような計算式を使います。

06か月以上12か月未満:平均標準報酬額×支給率(対象保険料率×0.5×06)
12か月以上18か月未満:平均標準報酬額×支給率(対象保険料率×0.5×12)
18か月以上24か月未満:平均標準報酬額×支給率(対象保険料率×0.5×18)
24か月以上30か月未満:平均標準報酬額×支給率(対象保険料率×0.5×24)
30か月以上36か月未満:平均標準報酬額×支給率(対象保険料率×0.5×30)
36か月以上36か月未満:平均標準報酬額×支給率(対象保険料率×0.5×36)

計算後の金額から20.42%の所得税を引いた金額が申請者の口座に振り込まれます。

平均標準報酬額って?

厚生年金の計算の元になるのは、毎月受け取る給与そのものの金額ではなく、区切りのよい幅で区分した「標準報酬」というものです。「標準報酬月額」は、4月~6月の給料(報酬)の平均額を、あらかじめ定められている30種類の等級に当てはめて決まります。さらに賞与(ボーナス)についても、支給額の 1,000円未満を切り捨てた額(ただし上限は150万円)が「標準賞与額」となり、この「標準報酬月額」と「標準賞与額」を合計して、厚生年金加入月数で割った額が平均標準報酬額になります。

支給率って?

厚生年金の加入期間によって係数が決まります。数字は6か月ごとに増えていきますが、3年以上になると一定になります。つまり、4年勤めても10年勤めても受け取る金額は同じです。転職して会社が変わったとしても、厚生年金保険に加入している限り期間は通算されます。

保険料率って?

保険料率とは、2004年から2017年までは毎年0.354%ずつ引き上げられ、2017年以降は18.3%に固定されることが決まっている数字です。ここ数年だと2013年9月分~が17.12%、2014年9月分~が17.474%、2015年9月分~が17.828%、2016年9月分~が18.182%と定められています。

算出例

では、2016年4月に退職し、平均月給22万円、賞与30万円の給与で3年間厚生年金保険に加入していた外国人の場合の脱退一時金額を計算してみましょう。(22万円×36か月)と(30万円×6回)を足したものを36か月で割って、平均標準報酬額が27万円となります。その金額に、2014年9月〜2015年8月の保険料率である17.474%を半分にしたものをかけて、さらに36か月以上加入していた場合の係数36をかけると849,236円になります。これが脱退一時金の金額です。ここから所得税分(総額の20.42%)を引いた675,823円が所定の外貨に換算されて申請者の口座に振り込まれます。
※この金額は参考例であり、おおよその目安に過ぎません。実際の計算方法や支給額は勤務先の経理担当者や日本年金機構に問い合わせることをおすすめします。

 

厚生年金の脱退一時金の申請方法

脱退一時金の申請に必要なものは以下の通りです。

脱退一時金請求書

各国語版が日本年金機構ホームページからダウンロード可能

パスポートのコピー

出国した年月日、氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページ

銀行情報

脱退一時金の振込先となる銀行名、支店名、支店の所在地、口座番号、本人の口座名義であることが確認できる証明書類

年金手帳

帰国の際になくさないよう注意

上記を出国後に日本年金機構宛に郵送します。脱退一時金請求書をダウンロードすると詳しい説明や記入方法が記載されているので、そちらを参考に記入欄を埋めていきましょう。封筒に貼る宛名ラベルまで用意してくれているので安心です。無事に申請が認められれば、算出された脱退一時金の総額から所得税を源泉徴収された残りの金額が、口座の国籍に合わせた外貨にその時点の為替レートで換算されて振り込まれます。所得税は後から還付申告をすれば払い戻しを受けることができます。ただし還付を受けるには、日本国内の納税管理人を選任して管轄の税務署に手続きを行う必要があり、少しハードルが高いかもしれません。

 

脱退一時金の注意点

申請にあたって注意が必要なのが、自分の母国が日本と年金通算の協定を締結している国かどうかです。脱退一時金を受け取ると、脱退一時金の計算の前提となった期間、つまり日本の会社で働いた期間は、「厚生年金保険に加入していない期間」とみなされ、年金加入期間として通算されなくなります。場合によってはあえて脱退一時金を申請しないでおいた方が最終的には得になるケースも考えられるので、脱退一時金を受け取った場合と受け取らない場合の比較を、母国の年金事情も合わせてよく考えることをおすすめします。(詳しくは国民年金の脱退一時金に関するコラムをご覧下さい)

※日本と年金通算の協定を締結している国:ドイツ、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド(未発効)、ルクセンブルク(未発効)、フィリピン(未発効)

 

まとめ

毎月支払う厚生年金保険料は、半額は会社が負担するといっても累計するとかなりの金額になります。この全てが掛け捨てになってしまう事態はできれば避けたいですね。日本での仕事を無事に勤めあげ、幸い障害年金や遺族年金等を受け取るような事態にも陥らずに帰国することになった場合には、支払ってきた保険料を少しでも取り戻すためにも、脱退一時金の申請をぜひ検討してみて下さい。

 


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磯山ゆきえ

この記事を書いた人

磯山ゆきえ 磯山 ゆきえ

気ままな海外一人旅が好きです。外から見たこの国の姿を意識しながら、日本に関する楽しい話題をお届けできたらと思っています。

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