日本に住むなら加入が必要。外国人の年金制度とは

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観光客として遊びに来る立場ならただ楽しく過ごすだけでいいけれど、もし日本国内に住まいを構えて生活するのであれば、社会保障制度についてちゃんと知っておく必要があります。そして特に混みいっていて難しいのが年金の仕組みです。「日本人じゃないんだから関係ない」と思っていませんか?外国人の方も日本に住むのであれば無関係ではいられません。ここでは、日本に生まれた日本人にすら分りづらい年金について、外国人目線で考えてみます。

 

そもそも年金とは

一口に年金といっても、いろいろな制度があります。民間の保険会社などが「年金」と銘打った金融商品を扱ったりもしていて混乱しがちですが、ここでは公的な年金制度、基礎年金と呼ばれる「国民年金」と一般企業に勤める人や公務員、教職員などが加入する「厚生年金保険」の2つの中から、「国民年金」について取り上げます。

まず最初に押さえておくべきポイントは、国民年金は「日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入するもの」ということです。上に書かれた厚生年金に加入している人は、同時に国民年金にも加入しています。厚生年金保険料の一部が自動的に国民年金に拠出される仕組みになっているからです。このため、厚生年金に加入している人達は、保険料を払わなくても国民年金にも加入していることになる訳です。

では、国民年金の被保険者がどのように分かれているか見てみましょう。

第1号被保険者

  • 自営業者、学生、無職の方などが加入する国民年金だけの加入者
  • 保険料は性別・年齢・所得に関係なく一律で、金額は年によって変化します。(2015年度は15,590円)

第2号被保険者

  • サラリーマン、OL、公務員、教職員など厚生年金の加入者
  • 保険料は給与額により決まり、事業主と被保険者が折半して支払います。

 第3号被保険者

  • サラリーマンや公務員、教職員の妻など第2号被保険者の被扶養配偶者
  • ただし、年間所得が130万円以上ある人は扶養には入れず第1号被保険者になります。
  • 保険料の負担はありません。

 

保険給付の種類

国民年金に加入すると受け取れるのはどんなお金でしょうか。主だったものは下の通りです。

老齢基礎年金

年金といえばまずは思い浮かぶのがこちらですね。老後の生計を支えるためのお金で、基本的には65歳から受給できます。繰り上げて60歳から受け取ったり(月々の金額は減額されます)逆に繰り下げて70歳から受け取ったり(当然増額されます)することも可能です。

障害基礎年金

病気やケガなどによって一定の障害を負った場合に受給できます。

遺族基礎年金

年金に加入している人が亡くなった場合にその遺族に対して支給されます。

その他に「死亡一時金(老齢基礎年金・障害基礎年金のいずれも受けないで死亡し、その遺族が遺族基礎年金を受け取ることができない場合に支給)」や「寡婦年金(第1号被保険者として保険料を25年以上納めている夫を亡くした妻に支給)」などもあります。

障害基礎年金や遺族基礎年金は加入中に障害を負ったり命を落とせばすぐに支給されますが、老齢基礎年金を受け取る為には、 原則として国民年金に加入している期間(被保険者期間)が合計で25年以上必要になります。これは、加入しているのが厚生年金であっても、あるいは第3号被保険者として誰かに扶養されていた期間でも、すべて合算して25年以上あれば受給資格を満たすことになります。逆に1ヶ月でも25年に満たなければ、1円も年金を貰えないという悲しい結果になってしまうのです。

 

外国人も年金への加入が義務付けられている

上に「日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する」と書きましたが、これは外国人でも例外ではありません。当然、日本国内に住所があるなら日本人と同様に国民年金に加入する義務があり、要件を満たせば受給できます。そして一旦年金支給が開始されれば、その後帰国するなどして在日資格を失っても年金の支給は続くので、どうかご安心を。 どこか会社に勤めていて厚生年金に加入する場合であれば会社が手続きを進めてくれると思いますが、自営業の方などは国民年金の手続きを自分で進めなければならずハードルが高いかもしれません。それでも日本に住む上での「義務」だと胸に刻んでしっかり加入しましょう。

 

どうやって支払うか

国民年金の保険料を支払うには、複数の方法があります。

口座振替

前もって口座を登録しておき、毎月決まった日に保険料が自動的に引き落とされるという方法です。手続きには口座振替依頼書の提出が必要で、年金事務所または金融機関の窓口で受け付けています。前納や早割などを利用すると、保険料が減額されてお得だったりします。例えば2年分の国民年金保険料を前納すると、約36万円という手痛い出費にはなりますが、1か月ずつ支払うより15,000円以上も安くなります。

クレジットカード納付

クレジットカードにより定期的に納付する方法です。クレジットカード納付申出書を提出すれば利用でき、年金事務所または郵送で受け付けています。

金融機関、郵便局、コンビニでの納付

日本年金機構から郵送される納付書(国民年金保険料納付案内書)を使って、現金で支払う方法です。こちらも前納により保険料が減額されます。

 

支払わないとどうなるか

もし国民年金保険料を支払わないとどうなるのでしょうか。まず、老齢年金が貰えない。これはわかりやすいですね。保険料を払っていない月が多くなると、その分老齢年金の金額が減らされていき、払った月数が25年よりも1か月でも少なくなってしまうと1円も貰えなくなってしまいます。更に、国民年金で貰えるお金は老齢年金だけではなく障害年金と遺族年金もあります。病気やケガによって障害を負っても、自分が命を落として家族が残されても、保険料に未払いがあるとこれらのお金は支払われません。

では「年金は貰えなくていいから保険料を払わない」という選択はできるのでしょうか?残念ながらそれはできません。国民年金は公的な年金制度で、加入が義務付けられているからです。十分な所得があるにもかかわらず、国民年金保険料を支払わない場合には、国が強制的に保険料を徴収することができるルールになっています。

国民年金保険料の未払いが数か月続くと、国民年金保険料が未納になっていることの通知が始まります。自宅や携帯電話に電話がかかってきたり、封書やはがきで催告状が届いたり、自宅への戸別訪問など、様々な方法で保険料を支払って下さいという案内が行われます。そして未払い期間が長期間続くと、最寄りの年金事務所から特別催告状が届きます。それでも無視し続けると、最終催告状が送付されてきます。この段階まではあくまでもお知らせの扱いです。最終催告状に書かれている日付までに支払われない場合には、支払う意思が無いものとみなされ、強制的に徴収が行われることの通知である督促状が届きます。督促状の期限さえも無視した場合には、滞納されている国民年金保険料を差押により取り立てることが差押予告通知書により通知されます。同時に、銀行口座の明細を銀行から取り寄せるなど資産状況の調査が始まります。そして資産状況が確認され次第、事前通知なく差押が行われてしまうのです。差押とは、未納となっている年金保険料に延滞利息を加えた金額が強制的に徴収されることです。銀行預金から保険料の滞納分相当額を強制的に差し引かれたり、自動車や貴金属等が取り上げられて競売によって換金されたりします。

怖いですよね。でもこのような強制的な徴収が行われるのは、「十分な所得や貯蓄があるにもかかわらず国民年金保険料を支払わない」場合です。「お金がなくて保険料を支払うことが難しい」場合には、保険料の支払いを減免・免除される手続きがちゃんと用意されています。また学生に対しても、申請により在学中の保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」が設けられています。保険料を払っていないことには変わりなくても、未納と免除では全く違うので、経済的に困っている場合は積極的に利用しましょう。

 

カラ期間って何?

老齢基礎年金は保険料を25年間支払わないと受給できません。ある程度の年齢になって日本に来た外国人の場合には、「25年なんて長い期間の保険料は払えないから老齢年金を受け取れないよ」と思ってしまいそうになります。でも実は、日本に帰化または永住許可を受けた外国人は、日本にずっといる日本人より年金に結びつきやすいかもしれないのです。なぜなら「日本に来る前の外国にいた期間」をカラ期間として含めることができるからです。

カラ期間ってどんな期間?

外国人の場合、日本に帰化または永住許可を受けた場合は、20歳以上60歳未満のうち、下記の期間が合算対象期間になります。

  1. 1961年4月から1981年12月まで外国人として在日していた期間
  2. 1961年4月以降で海外に居住していた期間

例えば30歳で来日して帰化または永住許可を受けた場合は、カラ期間が10年(海外に居住していた20歳~30歳の間)あるので、年金に15年間加入すれば最低加入期間25年をクリアできます。ただし、カラ期間は実際に年金を支払っている訳ではないので、受給期間の算定に使うだけで、年金の支給額には反映されません。だから「カラ」なんですね。

 

日本と社会保障協定を結んでいる国出身なら

年金加入後、そのまま日本に永住するなら払った分の老齢年金を受給できていいけれど、自分の国に帰国することになったら、「払い損になるのでは?」と心配になりますよね。また、母国の年金を制度上脱退できない人は、「日本と母国とで二重に払わないといけないの?」という不安もあります。このような問題を解決する為に存在するのが「社会保障協定」です。

日本と社会保障協定を締結し、発行済みの国

ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー

締結済みで発行準備中の国

イタリア、インド、ルクセンブルク、フィリピン (いずれも2016年2月現在)

上記の国の出身者が、「5年以内の見込み」で日本に赴任(自営業者も同様です)する場合は、引き続き自国の社会保障に加入し続け、日本の社会保障加入を免除されます。この手続きのためには、外国人本人が来日前に、日本の社会保障制度加入を免除されるための「適用証明書」を自国の年金担当窓口で入手する必要があります。この証明書を日本の年金事務所に届け出ることによって、日本の年金への加入が免除されます。 

では、赴任期間が「5年を超える」と見込まれる場合はどうなるかというと、赴任後ただちに日本の年金に加入することになります。 しかし、日本とこの協定を結んでいる国であれば、日本で支払った保険料を帰国後に自国の年金と合算することができるのです。(※ただしイギリス、韓国、イタリアに限ってはこの合算はできません。それぞれの国ごとに決められた支給要件を満たさなければ老齢年金を受け取ることができないので注意が必要です)

 

社会保障協定のない国でも「脱退一時金」制度で安心

社会保障協定を結んでない国出身だからって、嘆くことはありません。6か月以上年金を納めて、老齢年金や障害年金を受け取ることなく帰国した外国人の場合、日本を出国してから2年以内に請求を行えば「脱退一時金」を受け取ることができます。支給額は6か月単位で決められています。36か月(3年)までは加入期間に応じて増えていきますが、それ以後は増えないので、年金加入期間が3年の人の方も10年の人も貰える脱退一時金の額は同じです。請求手続きを行う場合は、「脱退一時金請求書」「パスポートの写し」「振込を希望する銀行口座の情報」「年金手帳」を日本年金機構に送付します。

なお、社会保障協定を結んでいる国出身の人でも脱退一時金を受け取ることはできます。ただしその場合は年金の納付期間の通算はできなくなります。脱退一時金を請求するのが良いのか、納付期間を通算した方が良いのか、より多く貰える方を選択することも可能です。

 

まとめ

これまでくり返し25年25年と書いてきましたが、老齢基礎年金を受け取るのに必要な被保険者期間が、今までの25年からなんと10年に短縮されることが予定されています。この変更は消費税率が10%に引き上げられるのと同じタイミングで実施されることになっており、今のところ2017年4月にスタートする見込みです。この件に限らず、年金に関する内容はめまぐるしく変わっていきます。例えばかつては公務員や教職員の為に「共済年金」という制度がありましたが、2015年10月に厚生年金に一本化されました。重要な事項が大した告知もなくさらりと変わっていたりします。そのため、できるだけ最新の動きに敏感になっておく必要があります。日本年金機構のホームページには英語バージョンが用意されており、中国語ほか10か国語のパンフレットもダウンロード可能です。きっとあなたの理解の助けになるはずですよ。

参考:日本年金機構(english)

 


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磯山ゆきえ

この記事を書いた人

磯山ゆきえ 磯山 ゆきえ

気ままな海外一人旅が好きです。外から見たこの国の姿を意識しながら、日本に関する楽しい話題をお届けできたらと思っています。

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